ITコーディネータ 針生徹 の blog |
頭数合わせ→繰り上がり→値踏み→遠距離→萌芽→個別研修→単調子→チョロQ→衝動買い→類友
その晩も針生は昌典に呑まされ、かなり酔っ払っていた。おまけに、呑む時は何も食べない針生なのに、最後に焼肉を食べたのがいけなかった。吐きそうなのをこらえると、目の前が真っ暗になった。なんとか家には帰ってきたが、目覚しを掛けるのも忘れてブッ倒れた。昌典と呑むといつもこうである。 朝日が眩しくて目が覚めた。頭が割れるように痛い。口からアルコールの臭いが溢れているのが自分で判る。時計を見ると7時半、やべぇっ! フラフラになりながら新幹線に飛び乗る。 昌典と呑みに行く事は聞いていた瞳は、こうなることは覚悟していた。列車の中からの電話を受けると文句をまくしたてたが、百円玉なのですぐ切れてしまう。結局、約束の時間だけをずらした。もっと怒られると思っていた針生だが、今日の瞳は寛大だった。 瞳の車を運転していても気分が悪い針生は、着いた頃には吐きそうになっていた。デートをブチ壊したくなかったので、脂汗を流しながら歯を食いしばった。涙ぐましい根性物語である。 こんな所へは、女の子と一緒でなければ来たくても来れない。針生は、瞳とデートする度に世界が広がっていくのを感謝した。 初っ端から噂に聞く「スペース・マウンテン」などに乗ろうものなら確実に死んでしまうだろうから、最初はおとなしいのにして下さい。ってことで、「カリブの海賊」。精巧な人形の動きに驚嘆していると、突然3m程の滝を下り、もう胃がムカついてきた針生は、ここにはおとなしい乗物など無いのではないかと思うと逃げ出したくなってきた。 瞳はジェットコースターが大好きで、準備運動として乗ろうとした「ビッグサンダーマウンテン」が故障中なのを残念がったが、針生は二日酔の所為だけではなく、本当にジェットコースターが苦手だったので安堵した。瞳は、針生をイジめる楽しみは最後にとっておくことにして、蒸気船やお化け屋敷など平穏なアトラクションで我慢しといてやった。 好天に恵まれたこの日は、平日というのに修学旅行や東南アジアの観光客をはじめ、おのぼりさんで混雑していた。針生だって立派なおのぼりさんだったが。 針生は朝食を抜いたので、遅い昼食では高い物価に腹を立てながらも三人前をペロリと平らげた。それを見た瞳は「二日酔で具合が悪いってのは本当かしら?」と疑った。 レストランの前をパレードが通る。これだけの人数と衣装や乗物を見ると、物価の高いのも仕方が無いのだろうと思う。 「ダイヤモンドホースシューレビュー」というショーが気に入っている瞳は、頼み込んで舞台脇の特別席に座った。瞳のイタズラな視線に気付いた針生は、トイレでアルコールを全部出して不測の事態に備える。 フレンチ・カンカンを主体としたショーで、結構楽しめる。歌いながら、舞台から降りて観客の間を回る。と、一人の客が掴まり、スポットライトの中でキスされた。 「ハハァ、これだったんだな」 針生はホッと胸をなで下ろし、瞳は残念がった。 ところが、ショーはまだ続いた。コメディアンが踊りながら針生に近付いてきたかと思うと、突然、口の中にふくんだ豆を針生に向かって飛ばした。次から次から出てきて、最後にはまとめて吐き出す。豆の雨の中を逃げ惑う針生は、知らぬ間にショーに巻き込まれていた。照れ隠しに大笑いしていると、体調が回復してきた。 「ジェットコースターでも何でも来やがれ!」 針生に強気になられては面白くないので、瞳は「ピーターパン」や「キャプテンEO」で時間を稼ぐ。だが、そのお陰で針生の二日酔いも納まってきた。 いよいよ「スペース・マウンテン」にチャレンジしますかね。と平然を装っていた針生だが、列に並んで注意書きを読んでいるうちに不安が大きくなってきた。「心臓の弱い方・脊椎に異常がある方・体調の悪い方はご遠慮下さい」と書いてある。全てに該当する針生は、随所に設けられた避難口から逃げようとするが、瞳が袖を引っ張っていく。「犬じゃねぇんだぞ」と思いながらも、瞳に背くことは許されない。 降りてくる人の顔色を伺うと、大した事ねぇんじゃねぇかと思えるが、こういうのが好きな人達ばかりなのかも知れない。順番が近付くにつれ、ドクター瞳が測る針生の脈拍は数えていられないほど速くなっていく。 走り始めたら、もう死んだ気になるしかない。両手両足を突っ張り、車が上昇するのに合わせて、血液を脳に送り込んで意識を遠ざける。 失神寸前に、銀河の夜空へ飛び出して行った。強い横Gに逆らうように車体が倒れる。「なんだ、バイクと同じじゃねぇか」と思えば平気な筈だったが、針生は脳に溜めた血液を天井に置いてきてしまった。 「うわぁ奇麗だねぇ」と後ろの女子高生が平然と会話しているのに驚きながら、「そうか、遠くの景色を眺めりゃいいんだ」と悟った頃にはもう終りだった。 「何だ、物足りない」 ようやく血が降りてくると、地に付かない足の震えを止める為に針生は強がったが、鼓動がほとんど繋がって聞こえる。 「さぁ、次行ってみよう!」 跳ねながら「スター・ツアーズ」へ向かう瞳が宇宙人に見えた。 「次のは、ただ座って画面を見るだけだから大丈夫だよ」 針生はもう、瞳の言葉には裏がある事は知っていたが、ヤケクソな気持ちで発射台に格納されたロケットに乗り込む。 確かに画面を見るのには違いないが、効果音とともに画面と連動して強烈なGが部屋全体を襲う。前後・左右・上下、360度あらゆる方向に揺られ、胃の中がグチャグチャになる。 ヘリコプターの操縦士に憧れている針生は、トップガンになる為の訓練だと言い聞かせて必死に耐える。「もうダメだ、死ぬ~!」という所でやっと止まった。 「なんとか頑張ったでしょ?」と瞳の顔色を窺うと「そうね」とそっけない返事。針生をイジメる為に過激コースをハシゴした瞳も、実は気分が悪くなって後悔していたのだ。 外へ出ると、丁度、エレクトリックパレードが通るところだった。興奮を静める必要があった二人は、寒さに震えながら、最後まで見ていた。 すでに閉園時間が迫っていた。あっと言う間に一日が終わった気がする。遅刻した割には満喫できたが、乗りそびれた物もあるし、体調を整えて落とし前をつけにまた来なきゃならんな。 韓国大統領の来日で環状線が封鎖されていたので、下道で帰る。夕食を取っていない事を思い出してレストランに入ったが、伸びきったタラコ・スパゲティの大盛に襲われた瞳は、急激に胃が痛くなってしまった。寒さを我慢したせいだと瞳は弁解したが、針生には分かっていた。「スター・ツアーズ」の後遺症だという事を。 「ワシの勝ちだ」 どっちが勝ったとか、そおゆう問題じゃないんだが、優越感に浸る針生を見ると瞳は悔しくてしょうがなかった。しかし、マジで具合悪くて言い返す気力は無く、車がスタートすると同時に眠りについていた。口を開けたまま眠る、瞳の寝顔は子供みたいだった。 瞳が長い長い「スター・ツアーズ」から降りると、自分のベッドだった。ディズニーの魔法が解け、針生は消えていて胃だけが痛む。 「強い女を演じるのは無理なのかも知れないわ」 次はもっとしおらしい役でハッピーエンドの夢を見ようと、瞳は再び深い眠りに落ちていった。
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| 2008-11-13 07:08
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