大谷幸と『枕草子』 -Art Ensemble of Music-
3月に観たときは有線の流れる商店街で寒さに震えながらだったが、今回はドコモビルロビーの特設ステージで椅子も用意されていて、1時間ほどのミニコンサートでも二人が創る宇宙をたっぷり楽しめた。
vocal:愛華
発音が独特で楽器的な印象も受けるが、この美しい顔から出てくるのが信じられないほどの圧倒的なパワーを持った声である。息の使い方が絶妙で、心に染み入るハスキーな囁きから天をも貫くようなロングトーンまで自由自在、歌に映像的な彩りがある。
彼女が紡ぐ詞やアイデアもエキゾティックで、大谷の曲と相俟って、どの時代のどこの国の歌を聴いているのか分からない、不思議な浮遊感を味わえる。
海外を歩くと様々な文化や風習があり、それによって育まれた価値観の多様さに驚くのだが、でもやっぱり同じ人間だから通じ合うことを知って嬉しくなる。あれと同じ感覚だな。
piano:大谷幸
Wikipedia を見ても分かる通り、幅広く長いキャリアを積み重ねてきた中で自分が創りたい音楽、伝えたい物を確立し、愛華という類い稀な表現者との出会いによってそれをさらに進化させている。
音楽にジャンル分けなど不要と納得させる独自の世界なんであるが、意外と素直に受け手の中に入り込んでくる。
おそらく初めて聴く人がほとんどだっただろう会場も既に彼らの色に染まっており、新曲では手拍子で乗せて愛華が泣きそうになるくらい感動させたようだ。
いやいや、感動を貰ったのはこちらの方だ。大谷のピアノで揺れる身体に愛華の唄が突き刺さり、しかも曲の表情によって刺激される部位が変わると、日常の中で忘れかけていた感覚が呼び起こされ、生きていることの豊穣さに心が震えるのだな。
お陰でいい時間を過ごせたよ。一緒に連れていった子供達も何か感じてくれただろう。