母親の治療開始から2週目。予想以上に順調なようだ。
昔飼っていたダックスフンドを彼女が抱いて、傍らに幼稚園ぐらいのワシが寄り添っている写真を見せると、ニコ~っと笑う。
弟の手作りの対話練習帳?のページを捲りしげしげと眺める。「うれしい」とか「わからない」「うるさい」という基本会話に合わせた手書きの顔の絵が味があって、こりゃなかなかヒットだったようだ。
また、親父のちょっとピントの外れた語りかけに対して、姉がフォローして母親を代弁してやると「そうそう、そうなのよ~!」という具合に頷きながら「まったくぅ」というような顔をする。
言葉は出ないけど、半月前には絶望的に思えたコミュニケーションを取り戻せてきているようだ。それは欲目なのかもしれないとは知りつつ、治療の効果は出てきていると信じたい。
ところが、医師と話をするとこんな楽観はあっさり打ち砕かれる。悪化を抑えることには成功したとしても、腫瘍で破壊された部位が復元する訳ではないし、2回目以降も同じように副作用が出ないとは限らない。
おまけに、次回治療まで1ヶ月ぐらい空けるのだが、大学病院って所は治療しない間は居させて貰えないのだそうで、一旦どこかへ転院しろとのこと。それは分からんでもないのだが、「できるだけ早く出ていって貰えればありがたい」なんて言わなくてもいいよなぁ。
ま、いいや。同室の人から「ご家族の皆さんの愛の力が通じているんですよ」と言われた言葉の方を受け取ることにしよう。