父の母への思い by 人妻”かおり”
親父と二人でずっと居ると、知らなかった面が多くて驚く。
彼女がわからない人になってしまったから余計そう思うのだろうが、彼にとってかけがえのない存在であることは確かなようだ。
元々仲は悪くはなかったが、決してお似合いという訳ではなく、むしろ性格の不一致って奴の典型のような二人だ。ワシら子供がかすがいとなっていなければどうなっていたか分からないほど毎日飽きずに下らないことで言い争っていたが、天然の漫才こそが彼らの愛情表現だったのだろうか?
色んな想いが去来し、喋ることで気を紛らわせたいというのもあるだろう、老人特有の昔語りはかったるくもあるんだが、ちょっとは付き合ってやるか。
「院生のとき読書会を主宰していて、そこへ彼女が来ていた。色んな知的好奇心が旺盛で、ずっと通い続ける彼女は本物だと思い、一年半ぐらい付き合ってそろそろ一緒になってやろうと思ったんだ」
「あら、私は全然そんなつもりは無かったのよ」
「そんなことあるか! 勤めを辞めたり、他に噂のあった相手との仲を尋ねた友人に対して『今はもっと大切な人が居る』と答えたそうじゃないかぁ。大いに脈ありと見てプロポーズしたんだぞ」
ほぉ、こんなこと言ってやがりますぜ。
早く元気になって得意のツッコミを返してやれよ、母さん