ITコーディネータ 針生徹 の blog |
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寝台車と比べると雲泥の差の乗り心地のバスだったが、中継地のフェリアまでは普通の道路だった。ところが、ここで乗り換えてからはもう日本の基準では道路と呼べない所を走っていく。舗装してないのはもちろん、大きな岩がゴロゴロ転がっている山道を傾きながら登る。崖側に座っていてこちらへ傾いたときはもう死を覚悟するほどである。 こんな道が5時間ほど続く。かなりの奥地へ入ったはずだが、景色が変わらないのでどの辺りなのか見当も付かない。まぁ広大な南米大陸のど真ん中辺りだろう。 最後の街、サンタテレジーニャに着くと、食料や日用品などを持てるだけ買い込む。ここを出たら、上下水道、電気、ガス、電話などの社会的インフラとは無縁の生活となる。かと言ってアマゾンの自然の中で日本人が無防備で暮らせる筈も無い。必要となる物資は多いのだ。 ジープの乗り合いタクシーの屋根を満載にして、延々と続くジャングルを切り開いた赤土の道を進む。もうブラジルはどこへ行ってもそういうもんだと慣れてはきたが、同じ景色がずっと続くと時間間隔が麻痺してくる。 突然、空が一挙に広くなり、今度は西部劇のセットのように赤茶けた大地に掘っ立て小屋が並ぶ集落が現れた。小屋と言うよりほとんどお祭りの露店であるが、食料品などを売っている店も数軒並ぶ。一応そこが街(と呼べるのか?)の中心のようである。 さらにクルマを進めるとジャングルの合間にポツポツと居住用の小屋が見えてきた。その中の一軒がタカギさん、コンノさんが建てた家である。建てたと言っても、柱を何本か直接地面に打ち込み、梁を渡して藁を葺いただけであるが、熱帯だから雨を除ける屋根さえしっかりしていれば暮らせるのだな。 むしろ大変だっただろうと思われるのが水とトイレである。掘るのは専門のガリンペイロ達を雇って5メートルほど掘って水が出たところを浄化槽としてトイレは出来上がり。しかし、赤土だから水が出てもお馴染みの泥色であり、井戸は諦めてかなり離れた川から運ぶしかなかったようだ。どっちにしろ泥色に変わりは無いんだが。 調理や飲用にはそのままでは危ないのでセラミックフィルターで濾過した上で火を通してから用いる。洗濯と食器や身体を洗うには、ドラム缶に溜めておいて上澄みを汲む。如何に人間の生活に水が欠かせないか、水道の有り難さに初めて気付く。 調理用だけでなく、夜の灯りの源となるのはプロパンガスである。生ビールの樽ぐらいのボンベが台座となり、バルブ付きのランタンを 1.5 メートルほどのステンレスパイプを介して直接差し込んである。全開にするとかなり明るく、その下で読書もできるほどである。 先ほどの店も皆このプロパンランプである。如何にも夜店という感じで、誘蛾灯のように一日の労働を終えた男達が何百人と群がってくる。上半身裸、裸足で、カウンターに立ったままビールやピンガを呷り、大声でお喋りする。 その相手をする店の女性や炊事洗濯で雇われている女達も繰り出してきているようだが、比率は圧倒的に野郎ばっかり。しかもみんな筋肉隆々の若者である。酒が入ったり、女の取り合いで喧嘩になるのは日常茶飯事らしい。ワシが行った頃は既にある程度自治会みたいな秩序が成り立っていたようであるが、最初の頃は腰に拳銃をぶら下げて歩き、毎週何件か撃ち合いがあったと言う、まさに西部劇の世界だったそうだ。 さて、ガスランプの夜も長いのであるが、基本的には太陽とともに暮らすことになる。 空が白み始めると早くも聞こえてくるジャリ道を歩く足音は陽が昇る頃にはもうラッシュアワーのターミナル駅のようになる。タカギ邸(笑)から 15 分ほど歩いたところに蟻塚があるのだ。 写真はそのほんの一部である。この鉱山が発見されてからまだ数年とのことだったが、こういうのが一面に広がり、既に食い散らかされた状態であった。 資金の無い者は地表あるいは他者が捨てた土をザルに入れて泥色の水溜まりで洗う。いわゆるガリンペイロである。金鉱に群がる山師達と同様、裸一貫で夢を追えるということで多くの若者(だけではないが)が流れ込んできていた。 一日分の食料を得るぐらいは採れるのかもしれないが、ほとんどはクズ石である。お宝はやはり地下深くに眠っているのだ。 鉱脈まで辿り着くには 100m ~ 200m ほど垂直に掘った縦穴をワイヤーにぶら下がって潜っていく。 …のであるが、ウィンチを仕掛けた櫓の頼りなさを見よ! → 地獄行きのエレベータはゆっくりと降下していくが、発電器からのケーブルや排水・排気のパイプなども同じ穴を通っているので、それらにぶつからないように進むのは結構難しい。 地中に入るとすぐに太陽の光は閉ざされるが、100m と言えば 30 階建てビルぐらいの高さなんだから見えなくて幸いだろう。ワイヤーが切れたらイチコロだよなぁと不安になるが、実は底まで一直線に掘られているのではなく、数回乗り継ぎをするのだった。 地表近くは赤土というか泥を固めたような粘土質なので人力でも掘れるのだろうが、岩盤はダイナマイトで砕いていかねばならず、中継点で少し横へ進んで採掘してみて、さらに鉱脈を求めて地球中心へ向かっていく、というのを繰り返してきたようである。 まさに蟻の巣の内部なんであるが、例によってブラジル気質である。まして一攫千金を夢見るガリンペイロどもに計画や協調などを求める方が間違っており、誰がどこをどう掘っているかなど誰にも把握できないだろう。 時折ドーンと発破の音が響き、「これは遠いな」とホッとしても、気休め程度に補強してある木杭の隙間からパラパラと小石が崩れてくるともう生きた心地もしないんだが、こちらも負けじと発破を仕掛けてるんだから、まぁお互い様か。 掘り出した岩は、乗ってきたワイヤーを使ってバケツリレーで地表へ運ぶ。今日のノルマを全て吐き出さないことには再び太陽を拝めないのだ。 無事に地表へ戻ると、今度は岩からエメラルドの原石を取り出す作業である。まずは掘り出したサッカーボール大の岩をハンマーで砕く。大きな結晶なんて滅多に無いから碁石大にまで割ってから選別するのだ。 ん? ←このインディオの顔、どっかで見たような気が… いや、気のせいだな。 砕いた石をドラム缶の洗濯機と言うか遠心分離器なのであるが、そこへ放り込んでグルグル洗う。軽い砂利などは飛ばされ、比重約 2.7 のエメラルドが中心に沈むという仕組み。しかし他の鉱物も比重は高い物は多く、最終的には人間による目視検査となる。 しかし、これがねぇ。 さっぱりわからん。 この中から緑の六角柱を選び出せって、ウォーリーより至難である。 色は全て石色だし、六角ったって角ははっきりしてないし、表面だってザラついている。 ってぇか、ワシゃ赤緑色弱でっせ~ 先輩達が選別済みの物を光に翳してみれば、あぁエメラルドグリーンってこういう色だっけと思うが、研磨する前はとても宝石には見えんな。 その研磨に持っていけるのは1日 10 数個。さらに研磨師の鑑定をパスして実際に買い取って貰えるのは2~3個だけ。後はクズ宝石や工業用ベリリウムの原料として二束三文であるが、毎日コーラ缶3杯ほどは収穫があるから人夫達の日当を払って夢を追い続ける程度には稼げているとのこと。 あれ? この現地人… (って、しつこい 彼は屋敷(笑)の警護も担当していたようだが、試射をしても全く当たらなかったそうだから、本当に使う機会が来なくて良かった。 こんな顔してるからと言って、日本で温々と育ったプータローなんかが通用する所じゃないんだよ。 山奥にも拘わらず最初に作られた娯楽施設であるサッカーグラウンドで親睦を図るぐらいが精一杯のようだから、そろそろ退散しようぜ。
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| 2008-12-30 17:13
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