ITコーディネータ 針生徹 の blog |
頭数合わせ→繰り上がり→値踏み→遠距離→萌芽→個別研修→単調子
ゴールデン・ウィークも当然仕事だと覚悟していたのが、思いがけず休みが取れた針生は、天気も悪そうだし、ここ数ヶ月は世の中の動きから取り残されていたので、読書をして、ビデオを見て、のんびり過ごすことにした。 1ヶ月分眠った。夕方に起きて死ぬほどメシを食い、瞳に頼まれていた「ランバダ」を録音していたら、同級生の DEBU から電話が入った。 「明朝6時にガレージに集合。 遅れないように!」 針生が来るのは当然という口調で一方的に切られてしまった。奥多摩あたりでバーベキューをやるらしい。 「ワシゃ休養するんだから、勝手にやりなさい。 どうせ明日は雨だぜぃ」 無視して眠ろうとしても、ついさっきまで寝ていたので眠れる訳は無かった。連休中どこにも行かないのってのもナンだし、天気は微妙で、自分が行かないまま楽しまれるのも癪に障る。 「ええい!面倒臭え!」 結局は行くことになるのである。子供の頃、「ご飯だよ!」と呼ばれながら、寝た振りをしていたら二度と呼ばれなくて食いっぱぐれた経験から、誘いを断ることに異常とも言える恐怖を抱いていた針生であった。 チョロQにとってはとてつもなく長い道程を東京へ向かった。予想された通り、那須あたりから強い雨が降り出し、まるで意味の無い苦労をしていた。騒音と振動で眠くなる心配は無かったので、針生は瞳の事を改めて考えてみた。 瞳は顔は犬でも心は猫だった。猫にしては愛嬌があったので皆が世話をしようとするのだが、飼われているなどとは毛頭考えてもおらず、居心地の良さを求めてすぐにどこかへ行ってしまう。痛い目に合って帰って来ることもあるが、それっきりのことも多いらしい。 針生は根っからの犬だったので、猫の気持ちなどまるで解らなかった。最近はウチに入り浸っているから、自分が飼っていると思いたかったが、単なる気まぐれかも知れず、堂々と「ウチの猫です」とは言えない。居心地は良い筈だと自惚れているものの、早く鈴をつけないといつ逃げられてもおかしくはなかった。 夜が明け、都内へ入る頃には薄曇りになった。集合場所へ着くと、センチュリー、クラウン、マークⅡ、スカイラインと皆いい車に乗ってやがる。道玄坂の板前までがアコード・インスパイアの新車を見せ付ける。さすがバブル全盛である。 親戚の家業を立て直す為ということもあって軽で我慢していた針生だが、隣に瞳を乗せるとなるとやはりチョロQではちょっとなぁ… ところが、瞳は見た目の派手さの割にそういうところは頓着しなかった。自分はブランド物が大好きだったが、だからってそれで持ち主を評価したりはしないし、そもそもクルマってのはただの移動手段でしょ、ぐらいの感覚だった。いや、実際にこれで東京~仙台なんか乗せられてみたら考えも変わるだろうがね。 翌日も雨だった。突然の上京だったので瞳には知らせていなかったが、電話をしてみると雨の所為で友達との約束を延期した瞳は、今日は空いていた。 「家に来るまでにプランを考えておくように」と命令された針生は、途中で情報誌を買って準備したのだが、瞳に認められるような良い案は浮かばなかった。 実家の近所でウダウダやっていて、「細川の御令嬢が宮城ナンバーのチョロQに誘拐された」などとウワサされては迷惑なので、瞳は乗り込むとすぐに葛西臨海公園へ向かわせた。数年前にオープンしたのだが、まだ行ったことが無かったのだ。 道は空いており、この分では皆都内から脱出したのだろうと思ったのだが、これは甘かった。水族館に並ぶ行列の長さに驚いた二人は、人工の渚で海風を感じただけで帰ってきた。 深川の木場から越中島・月島・晴海・築地… 針生が 10 年ぐらい前にトラックの運転手をしていた頃よく走った場所であるが、その変わり様に驚く。下町のゴチャゴチャを抜けると何にも無い埋め立て地が広がり、道路でレーシングカートの練習をやっていたような所だったのが、今ではウォーターフロントなどと呼ばれて流行っているらしいことが可笑しかった。 針生は、何かの雑誌で知った「アマゾン・クラブ」というブラジル料理店へ行ってみたかった。 浜離宮の裏の筈だが、竹芝桟橋との間にそんな店が有りそうな気配は全く無い。多分、ロフトのように外見はただの倉庫のようになっているとは思うが、とにかく見える範囲には何も無い。諦めて交番で聞いたが知らないという。 「ピア」を良く捜すと載っていた。電話すれば早いのだろうが、住所さえ判れば針生のものである。ビルの間の私道に入って行き、一軒ずつ番地を確かめる。 「5・4・3・2・1・ゼロ!」 危うく通り過ぎてしまいそうになったボロ小屋が目当の店だった。看板もツタでも這っているようにしか見えない。 まだ開店前だったので、時間を潰す為に暴走族の社交場だった大井埠頭へ行ってみた。公営賭博からゴキブリのように溢れ出てきた労務者で混雑する中を逆に歩いて行ったが、海の見える場所には入れないんじゃん。などとやってるうちに丁度良い時間になっていた。 陽が落ち、暗闇の中に浮かび上った緑のネオンの下、重い扉を明けて2階に登るとジャングルだった。サトウキビの焼酎「ピンガ」をレモンで割った「カイピリーニャ」を呑みながら、シュハスコ・パステル・ヤシの芽といったブラジル料理に舌鼓を打つ。日本人向けに洗練されてはいたが、針生には懐かしい味で満腹になった。 いい塩梅に出来上がった二人は再び埠頭へ行って休む。普段は犬の針生も今夜こそは狼に変身するつもりだったが、瞳は赤ずきんを被ってトボけていた。そこへまたお約束通りにハイビームにしたパトカーが近付いてきた。 やべっ、ワシゃ世祓いだぞ… 続く
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| 2008-11-10 06:42
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