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ITコーディネータ 針生徹 の blog
遠距離
頭数合わせ繰り上がり値踏み

 細川瞳は大阪に居た。

 「なかなか面白そうな街じゃない」

 生まれて初めて来たのだが、まるで地元の人間のように一緒に出張した人達を案内していた。関西の方が、ずうずうしく、トンチンカンな瞳に合っているのかも知れない。
 街で知り合ったおじさんとカニを食いに行った後、ワインを2本空けてカラオケを20曲ほど歌うと、さすがにクラクラしてきた。添乗員としては皆の前で潰れる訳にはいかず、キタもミナミも判らないまま、頑張ってホテルまで歩いた。

 部屋へ戻ると緊張が解け、風呂に入ったとたんに急激に酔いが回ってきた。しばらく風呂で眠っていたが、気分が悪くなって出た。

 「なんで、こんな辛い思いをしなきゃなんないのよ」

と思うと、誰かに怒りをぶつけたくなってきて、仙台の針生徹に電話した。

 「大阪に居るから、電話してちょうだい」

 針生は先週、東京で最初のデートでいつものように酔っ払って瞳を怒らせてしまったので落ち込んでいた。しかし、挽回策を考える事も面倒臭くなって放ったらかしていたので、突然の瞳からの電話に感激した。
 言われたままに番号を回し、一方的にまくしたてる酔っ払いのタワゴトを聞きながら、「なんだ、そんなに怒ってねぇじゃねぇか」と安心するとともに、遠く大阪に居る彼女と繋げてくれる電話ってのはなかいいもんだと電話嫌いを改めようと思った。

 針生は会社を設立したばかりだった。定款にはコンピュータソフトウェアの設計となっていたが、何をするかはこれから考えるつもりだった。東南アジアの踊り子さんを斡旋する人身売買でもやろうかと考えたが、実際は自分が売られていた。
 既にバブルは弾けつつあったのだが、好況時に売り込んだ案件の開発が目白押しであり、針生のようなフリーランスも引く手数多でその日のうちには帰らない生活が続いていた。
 電話の良さを知ってしまった針生は瞳の寝入りばなを叩き起こすのが楽しみな日課となる。他愛ない会話で気分良く眠りに就くと、今度は瞳からお返しに掛かってきて起こされる。というアホな応酬にお互い疲れて電話を切る頃には夜が白み始めている。

 針生はそんな生活を楽しんではいたが、さすがに睡眠不足が続くと堪える歳になってきたし、社長が売られているようじゃ会社として先が見えない。これからどうやって凌いでいこうか、世界最大のコンピュータ会社に居る加藤昌典に相談に行った。ところが、昌典はそれどころではなかった。4月に会社の報償旅行で生まれて初めて海外へ行くのでパニックになっていたのだ。

 「こりゃダメだ…」

 昌典は、いつもは楽しくていい人なんだが、パニクるとどうにもならなかった。酔っ払った針生より始末が悪い。針生は悪い時に来てしまったと後悔した。
 その時、昌典に電話が入った。昌典が針生を見ながらニヤニヤして話しているので、針生はすぐに相手が瞳だと判った。東京での失礼デートを報告しているようだ。
 3月もまた仙台へ来る事になったらしい。昌典はまたも出張だったし、タケ坊こと竹下繁は逃げるようにスケジュール表に「東京研修」と書き込んでいる。よっぽど顔を合わせられない事をしたのだろう。

 「ざまぁ見やがれ 君達は縁が無いんだよ」

 おまけに、瞳が来るのは針生の32回目の誕生日の週である。それにしても、2月はバレンタインに来て、ホワイトデーにちゃんと回収に来るところはさすが瞳だった。

続く
by HarryBlog | 2008-10-04 22:57 | Bubble | ↑Top  
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針生 徹

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