ITコーディネータ 針生徹 の blog
⑨ Salvador
目次

バスに乗ると、先日ディスコで知り合った少女が乗っている。「おぉっ、隣に来いよ」と声を掛けると後ろの席の婦人が立ち上がり、「ウチの娘に何かご用?」と睨まれる。「いや、何でもないです」 娘の目が悪戯っぽく笑ってやがる。可笑しくねぇよ。

州名の通りバイーア(湾)を形作る半島の先端に位置するのがブラジル最初の首都サルヴァドール、さすがに規模は桁違いである。奴隷貿易の中心でもあったので、ブラックアフリカン系の割合が高い。ざっと見て8割は黒人という印象。

その奴隷市場のあったペロウリーニョ地区は旧市街と呼ばれ、石畳の坂道に歴史的建造物が多く残っている。オリンダに比べると煤けて朽ち落ちそうな感じだが、その分だけ人間が生きてきた実感のある街だ。
急な坂道が入り組んでおり、丘の上のセントロと港のある下町とは巨大なエレベーターやケーブルカーでも行き来できるようになっている。

この上の町のセー広場から眺める夕焼けは絶品である。赤く染まった海と海岸のオフィスビルやマンションの黒い影、波止場のヨット、沖に大きな貨物船、そして湾に浮かぶイタパリカ島の向こうへ陽が沈んでいく。珍しくブラジル人ですらお喋りもせずに景色に見とれている。

このセー広場のほど近くに宿を取る。そろそろ金が無くなってきたんで、古い建物の大きなフロアを間仕切りしただけの安い所にしておく。サンパウロにはまだ預けてあるチェックが残っているが、手持ち現金が底を突きそうだ。

これからどうすっかねぇ? 気が付けば早3ヶ月。ビザもすぐ切れる。旅行としては色々あって面白かったが、言葉を覚え、やる事を見つけるという目的には程遠い。日本も大変な状況らしいし、早ぇとこ決断しなきゃだぞ。

と悩んではみたものの、とりあえず今を楽しむのがブラジル流。夕食に入ったレストランに可愛い娘が居たのでさりげなく話しかける。もうすっかりジョゼのノリになってるぞ。

彼女がディスコへ行くというので付いていくと、ディスコと言うよりクラブ、そして実は彼女はそこで働いているのだった。ってぇことは…客引きに出てただけじゃん?

カンフー映画の悪役のような顔をしたフィリピン人の船員に指名されたようで、ワシはすっかり放ったらかし。なんだかバカらしくなったからピンガを一気に呷って席を立つ。「ごめんなさい、明日またあのレストランで待ってるから」 はいはい、営業だよね。

宿への足取りが重いのは石畳の所為か? 路地裏の暗闇に黒人達の白い目だけが光り、残飯を求める野良犬がキャンキャン吠えている。ワシゃこんなところで何をしてるんだろう?

翌日は島へ渡ってみようと思ったが、雨。という以前に二日酔いで頭が割れそう。夕方までずーっと部屋に引き籠もっていたが、さすがに腹減ってきたし、隣から喘ぎ声が聞こえてきたんで、シャワーを浴びて街へ。当然のように昨日のレストランへ向かっている。

昨日の彼女、クラウディアは女友達と来ていた。浅黒い肌に彫りの深い顔立ち。半分眠っているようなエキゾチックな目で笑いかけられるとクラっときちゃうな。やっぱりこの男の性格なんとかして下さい。

3人でビールを呑みながら色々と話し、笑う。おぉ普通に楽しい! と盛り上がってきた頃に、そろそろ店へ出なきゃというクラウディア。「店に1万コント払えば行かなくていいんだけど…」ワシには大金だな。それで君を買えってことだよね? 「悪いけど、そういう気は無いから」と送り出す。残った友達ルージマが「これがあの子の仕事なのよ」 わかってるさ。

「じゃ、ちょっと来て!」とルージマがワシを連れ出す。裏通りを進み、古い建物の2階へ。一つのドアを指差し、「ここがクラウディアの部屋。明日3時にここへ来て、との伝言よ」

翌日も雨が石畳を濡らしていた。港へ行ってみたが、することも無くブラブラ時間を潰し、約束の時間にクラウディアのアパートへ。「いらっしゃい」 素直な笑顔だ。なるほど束縛されない昼間に逢いたかったのだね。ようやく得た二人っきりの時間を貪るように楽しむ。

映画を観に行ってから、いつものレストランで夕食。この街ではここでしか食べてないなぁ。

と、そこへお約束のフィリピン人登場。おめぇ、さっきのカンフー映画でやられてた筈だろ、と言いたかったが現実ではワシの方が太刀打ちできないのだった。ナプキンに「許して!」と走り書きして彼女は奴と同伴出勤。ワシはまたピンガのお代わりを重ねて宿へ戻るが、どうにも寝付けない。

ようやく眠りに就いた真夜中、激しく叩くドアの音。開けるとクラウディアが立っていた。「5軒もホテルを捜し回ってやっと見つけたわ」 やられた、降参です。

そのまま一緒の朝を迎え、昼間はずーっと彼女と過ごす。そして、夜は仕事へ送り出す。なんだかこれってヒモみたい? いつまでこうしてるつもりなんだよ? これ以上ウダウダしてるとサンパウロへのバス代もヤバい。「一緒に連れてって」と言われてもそんなことできない。ワシゃ只の風来坊でっせ~

その晩は彼女の来訪は無く、二日分ぐっすりと眠る。目が覚めるとこの街に来て初めてのドピーカンだったのでボートで島へ。チリの団体さんと一緒になる。島は驚くほど静かだ。波の無い内海の浜辺を2艘のボートで来た観光客で占有し、船員や島の人も混ぜて全員でフッチボール、ブラジル対チリ。草サッカーならまだまだ通用するな。「上手いねぇ」「日本でやってたからね」「え?プロなのか?」「まさか~」

街へ戻り夕食はまたいつもの店。しばらくして来たクラウディアが凄い剣幕で怒っている。「どうして今日居なかったのよ!」 え?約束なんかしてなかったよ。 「私が行くまで待っててくれるもんでしょ」 来るかどうか分からないのに? 「どこ行ってたの?」 島だよ、観光さ。 「誰と?」 おい、いい加減にしろ! 一人に決まってんだろ!

「そう、分かったわ。 だったら、サンパウロでも日本でもとっとと一人で行っちゃえば?」

いずれこうなる。ズルズル続く訳は無いのだ。彼女もそれが分かってるから早いところ決着を付けたかったのかもしれない。今なら傷は浅くて済む、か?

いいだろう、次のバスで発つことにするよ。 Adeus Salvador , Adeus Claudia !
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by HarryBlog | 2007-07-07 21:54 | Travels | ↑Top  
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針生 徹

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