ITコーディネータ 針生徹 の blog
そのとき
ワシ自身は決して忘れることは無いだろうが、看取った者として、記憶が鮮明なうちに最期の様子を書き記しておこう。






土曜夜に泊まったから、一日しか空いていないのに、明らかに呼吸の声が違う。苦しそうと言うよりは弱々しいという感じ。数値は彼女の平常値に戻ってはいるが、不安定であることは確かなようだ。

親父は寝てしまった。普段ならまだ平気で起きている時間なのだが、疲れてもいるだろうし、異常を聞いて駆けつけてみたら落ち着いていたので安心したということもあるのだろう。

彼は放っておいて、姪と二人でじっと様子を見守る。心電図の波は緩やかだが、心拍数と酸素濃度はかなり揺れている。なによりも、聞き慣れたあの鼾が聞こえない。

こりゃヤバいかもしれない、と姉と弟に集合をかける。

一時間ほどすると、ときおりアラームが鳴るようになった。今夜の当直は馴染みの無い人で、もちろん痰の吸引やネブライザーなど必要な措置はやってくれるのだが、なんとなく事務的な感じがしてしまい、心情的にはいつものあの人ならなぁ、などと身勝手に思う。

やがてアラームの頻度が上がり、看護師がもう一人と医師も待機する。と言って、吸引以外にこれといった打つ手も無さそう。クォンクォンと子犬が鳴くような呼吸音になっている。

親父を起こし、枕元で三人がそれぞれのやり方でエールを送る。親父は呆然と数値を眺めるばかり。姪は頭を撫でながら声を掛け続ける。ワシは少し離れてじっと瞳を見つめ、心の中で「ここから復活したら凄ぇぞ。それは無理でも姉と弟が着くまではなんとか頑張れ!」と祈る。

ワシはインジケータの方は見ないようにしていたのだが、アラームが鳴るとやはりハッとする。男の看護師がその度に警戒レベルを下げていくが、それより早く数値は落ちていく。

アラームの音が変わり、表示が -- -- となる。いや、でもまだ顎は動いて微かに吸おうとしている。心電図にも波が描かれている。再び数値が上がりだし、「やった!」と思う間も無くまた下がっていく。

これを3~4回繰り返しただろうか。時計を見ると2時を回っていた。もう1時間ぐらいこうやっている。千葉からの姉は厳しそうだが、弟は間に合うかも知れない。早く来~い!

「もういいよ」というように親父は表示が消えると緊張を解くのを感じる。1分でも長く頑張って欲しいと願うワシも、見つめる母親の顔がだんだん滲んでボヤけていく。

遂に、力尽きたように動きが止まった。表示はとっくに消えていたようだ。医師が儀式のように脈と瞳孔を確認して死亡を宣告する。言葉も無く頷く親父。

管を外し、機械類の音も消え、瞼を閉じさせると静かに眠っているようにしか見えない。そう、この5ヶ月間の苦しい闘いから解放されたのだ。これからはゆっくり眠れるんだよ。

おやすみなさい、永遠に。
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by HarryBlog | 2005-08-21 03:22 | Family | ↑Top  
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針生 徹

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