その女は魔女だった。苦艾の葉を囓って人間の言葉を操れるようになった蛙の化身なのである。
ひとたび彼女が発する言葉に触れてしまうと、それは意志を持った音楽として心の中に忍び込んでくる。心地良い刺激に身を委ねているうちに、奥底に閉じ込めておいた筈の人生の断片まで零れ出てきて、それらを掻き混ぜることで生きる意味を気付かせようとする魔法なのかもしれない。
まるで、大昔その強い向精神作用と依存性から多くの国で製造も発売も禁止された酒のようである。少量ならば薬にもなるだろうが、溺れると大変危険なポイズンピルって奴なのだな。
ツヨンの含量を抑えたり、アニスによるパスティスで代用もできるらしいが、禁断とか密造ってのに魅惑されるのも正直なところ。身体や精神が蝕まれるからこそ生きている実感を味わえるのだ。
そんな魔法使いも実は可愛くて素敵な女なんだよ、という秘密を自分だけは知っていると皆に思わせるところが魔女たる所以ではあるのだが、脳を溶かす不思議な力には抗えない。
なぁんて、自ら堕ちていこうと杯を重ねてしまっているのだけど、魔女に酔う、なんて他じゃ体験できないからね。
いい女だよ。強烈に。 >
アブさん